レチノイドは、エイジングケアにおいて最もエビデンスが豊富な成分群です。しかし、市販の「レチノール」と医療用の「トレチノイン(レチノイン酸)」では、作用メカニズムと効果に大きな差があります。
レチノイドの変換経路
肌で実際に作用するのはレチノイン酸(トレチノイン)です。市販のレチノールは、皮膚内で「レチノール→レチナール→レチノイン酸」と2段階の酵素変換を経て初めて活性型になります。この変換効率には個人差が大きく、実際に活性型へ変換される割合はごく一部にとどまるとされています。
市販レチノール vs 処方トレチノイン
化粧品のレチノールに、日本の化粧品基準は上限を定めていません。EUは、顔用を含む塗ったままの製品と洗い流す製品で0.3%(レチノール換算)、ボディローションで0.05%を上限にしています(SCCS/1639/21・EU 2024/996)。肌の中でレチノイン酸に変わるのは、そのうちの一部です。
トレチノインは、日本では化粧品に入れられない「医薬品の成分」です(平成20年8月14日 薬食審査発第0814001号)。医師の管理のもとで使い、量と回数も医師と決めます。赤み・皮むけが出やすい成分です。妊娠中・授乳中や妊娠を考えている時期は、レチノールもトレチノインも、使う前に医師に相談してください。
漸増プロトコル
レチノイドの使用は「漸増(ぜんぞう)」が鉄則です。低濃度から始め、肌の耐性を見ながら徐々に濃度・頻度を上げていきます。週2回の夜間使用から開始し、耐性ができたら毎晩へ移行するのが標準的なプロトコルです。
バクチオール——植物性代替の可能性
バクチオールは、形がレチノイドと似ていない植物由来の成分です。企業の研究では、皮膚モデルでの遺伝子の動きがレチノールと似ていました(Chaudhuri 2014)。大学の比較試験(44人・12週)では、バクチオール0.5%を1日2回とレチノール0.5%を1日1回で、シワの面積と色ムラの改善に差は出ず、皮むけとヒリつきの訴えはレチノールの側に多く出ました(Dhaliwal 2019)。レチノールに近い働き(コラーゲン産生のサポート、キメやハリの印象の変化)が報告されていますが、レチノイド反応(赤み・皮むけ)がほぼ見られないとされています。レチノイドに敏感な肌への代替選択肢として注目されています。
参考文献
本記事の科学的記述が依拠する主な査読論文です。
- Dhaliwal S, Rybak I, Ellis SR, Notay M, Trivedi M, Burney W, Vaughn AR, Nguyen M, Reiter P, Bosanac S, Yan H, Foolad N, Sivamani RK. Prospective, randomized, double-blind assessment of topical bakuchiol and retinol for facial photoageing. Br J Dermatol. 2019;180(2):289-296. PubMed
- Chaudhuri RK, Bojanowski K. Bakuchiol: a retinol-like functional compound revealed by gene expression profiling and clinically proven to have anti-ageing effects. Int J Cosmet Sci. 2014;36(3):221-230. PubMed
- Zasada M, Budzisz E. Retinoids: active molecules influencing skin structure formation in cosmetic and dermatological treatments. Postepy Dermatol Alergol. 2019;36(4):392-397. PubMed