ペプチドが効果を発揮するためには、「適切な濃度」で「肌に届く」ことが必要です。しかし、この2つのハードルは想像以上に高いのです。
ペプチドは微量で効くシグナル分子
ナイアシンアミドやビタミンCが数%単位で配合されるのに対し、ペプチドは製品の中にppm(0.0001%)単位で入る成分です。原料は溶液で売られていて、含む量は原料ごとに違います。パルミトイルトリペプチド-38では、Volulip が500ppm(CIR の資料)、Matrixyl synthe'6 が250ppm(0.025%・特許)です。原料を2%入れた製品なら、ペプチドそのものは5〜10ppmです(計算:2%×250ppm=5ppm、2%×500ppm=10ppm)。顔のシワで差が出た試験のパルミトイルペンタペプチド-4は3ppmでした(Robinson 2005)。これはペプチドが「濃度」ではなく「シグナル」で働く分子だからです。
ただし「微量でよい」ことは「何でもよい」を意味しません。試験で使われた量より少ないと、同じ結果になるかは分かりません。
500Da ルール——分子量と経皮吸収の関係
皮膚科学の経験則「500Daルール」によれば、分子量500Da以下の物質は角質層を通過しやすい。トリペプチド(〜300Da)やテトラペプチド(〜400Da)は比較的浸透しやすいのに対し、大きなペプチドは工夫なしには肌に届きません。化粧品でよく使われるペプチドは500Daを超えます(パルミトイルペンタペプチド-4は約802Da、アセチルヘキサペプチド-8は約887Da)。マウスの皮膚の試験では、修飾なしのペプチドはどの層にも見つからず、パルミトイル化したものは真皮まで少量(0.3μg/cm²)届きました(Choi 2014)。
脂質修飾(パルミトイル化)という技術
ペプチドに脂肪酸(パルミチン酸など)を結合させることで、脂溶性を高めて角質層の脂質バリアを通過しやすくする技術。成分名に「パルミトイル〇〇ペプチド」とあるのは、この修飾が施されている証拠です。
カプセル化技術
リポソーム(脂質二重膜)やナノエマルジョンでペプチドを包み込むことで、安定性と浸透性を同時に向上させる技術も進んでいます。ただし、これらの技術はコストが高く、すべての製品に採用されているわけではありません。
原料の純度差が実効性を左右する
同じ「パルミトイルペンタペプチド-4」でも、純度99%の原料と純度50%の原料では、実効性が大きく異なります。純度50%の原料で「配合」と謳っても、実際に有効なペプチドは半分以下。成分表には同じ名前が並びます。
だからこそ、配合量の開示が重要なのです。「ペプチド配合」ではなく、「何ppmで配合しているか」まで開示するブランドは、それだけで信頼性が高いと言えます。
参考文献
本記事の科学的記述が依拠する主な査読論文です。
- Gorouhi F, Maibach HI. Role of topical peptides in preventing or treating aged skin. Int J Cosmet Sci. 2009;31(5):327–345. PubMed
- Bos JD, Meinardi MM. The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs. Exp Dermatol. 2000;9(3):165–169. PubMed
- Robinson LR, Fitzgerald NC, Doughty DG, Dawes NC, Berge CA, Bissett DL. Topical palmitoyl pentapeptide provides improvement in photoaged human facial skin. Int J Cosmet Sci. 2005;27(3):155–160. PubMed